慶應義塾大学大学院を休学し、
医学部の編入を目指してうちの塾にやってきた子がいた。
日本全国、津々浦々の国公立大学医学部の編入学試験に出願し、1次の
英語、生命科学、小論文の試験はほぼほぼ合格。2次の面接でことごとく不合格になっていた。
授業を取っていたのは英語と小論文。そして面接指導を私が担当していた。
指導をするようになって4か月くらいが経ったころ、あまりにも結果が出ないからということで、退塾して今後の進路を考え直すことになった。
最後の面接指導。
彼はとてもスマートで、育ちのいい男だった。
しかし志望動機などを話してもらうと、やはり明らかに少し違和感があった。
私が感じたのは「ぶらさがりマインド」。
私は率直に彼に伝えた。
「こういう言い方すると、たいへん失礼で申し訳ないんだけど、率直につたえるのが職責だから、お伝えしますね。あなたの受け答えからは、別れを切り出してきた女性に対して、『俺を捨てないでくれ』と拝みたおすような『ぶらさがりマインド』が漂うんだよね。わかりますか?こういう図式の場合、女性が「わかったわよ」となることはない。女性は男性を絶対に捨てるのです。異性関係に限らず、人間関係とはそういうものなのです。それは面接が課される入学試験であっても、入社試験であっても同じです。人間がやることですから」
では、その「ぶらさがりマインド」から脱却するにはどうしたらいいのか。
ただ否定して終わりでは目も当てられない。
そこから脱却させて、ひとつ上のステージ、違ったとらえ方に持っていってこそ、受験の結果を変えることができるのである。
彼の真意として、
「何とか編入で合格したい。一般入試に挑戦して、センター試験から、2次まででは、受験科目数がそもそも違うし、何としてもその事態は避けたい」というのが垣間見えた。
だからこそ、次のワークに取り組んでもらった。
まずは、編入学試験で合格し、入学することによるメリットを、
挙げられるだけ挙げてもらった。
これはもちろん、簡単にどんどん出てくる。
比較的短時間で25個挙げることができた。
続いて、
編入学試験で合格し、入学してしまうことのデメリットを
同じく25個挙げてもらった。
これは時間がかかる。
編入学試験で合格し、入学したい、と心から願っていたわけで、
そこにデメリットなどあろうはずがない。
少なくとも私からこの質問を受ける前まではそのように考えていた。
だからこの質問を与え、そこまでスコトーマに隠れて見えていなかったところを見に行くワークをする。
これは時間がかかった。
しかし、何とか同じだけ、25個デメリットを挙げることができた。
そして、最後のワークである。
編入学試験の試験科目は、
英語、生命科学、小論文、そして2次の面接のみ。
それに対して一般入試となると
センター試験の数学、国語、理科も2つ必要だ。そして社会も。
2次試験は、多くの場合、数学、理科も2つ求められる。
この一般入試に挑戦して合格を勝ち取り、入学するメリットを挙げるのである。
面談は1時間以上に及んだ。
そして考え続け、脳のなかでつながっていなかったシナプスをつなげる作業に挑戦し続け、何とかこれも25個挙げることができた。
すべてのワークが終わったとき、彼はとても穏やかな、すっきりとした表情になっていた。
「何とか受からせてください」
というマインドではなく、毅然として
「縁がなければ、実力が足りなければ、鍛えなおして一般入試で仕切り直しますよ」という、開き直った心境に持っていけたかもしれない。
そして私は彼を送り出した。
そうして臨んだ浜松医科大学、秋田大学の入試において、
ついに彼は両大学の合格を勝ち取ることができた。
その後、彼は弘前大学の1次合格も勝ち取ったのだが、2次試験には進まず、同日におこなわれた私どもの塾の説明会に登壇し、合格体験談を語ってもらった。かれは浜松医科大学に編入学した。
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